勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録

SPECIAL

アニメーション制作記録

TV ANIMATION
SENTENCED TO BE A HERO

インタビュー

原作
ロケット商会/めふぃすと

圧倒的なクオリティのアニメ、
並々ならぬ気合いを感じた

26年1月から放送がスタートするアニメ
『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』。
アニメーション制作記録特別企画として、
原作のロケット商会先生、
原作イラストの
めふぃすと先生のスペシャル対談が実現!
作品に込めた思い、アニメ化に寄せる期待、
そして制作裏話……などなど、
作品やキャラクターの魅力をあますところなく
語っていただきました。

ザイロとテオリッタの関係性は
ゆっくりと深めていく

――『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』のアニメ化が決まった際のお気持ちをお聞かせください。
ロケット商会:嬉しかったと同時に、これで友人に胸を張って自慢できるなと思いました(笑)。
めふぃすと:僕もまったく同じです。知り合いのイラストレーターの中にはすでにアニメ化を経験している人が多く、ようやくその仲間入りができるという喜びがありました。
ロケット商会:ただ、その当時アニメ化の発表はずっと先を予定していたので、外に向けて大々的に発信できないもどかしさもありましたね。
めふぃすと:そうなんですよね。誰にも言えないので、知り合いの話を聞きながら「実は決まっているんだけどな……」と密かに喜びを噛みしめていました(笑)。

――めふぃすと先生にとっても今回が初のアニメ化ですよね?
めふぃすと:ソーシャルゲームで担当したキャラクターがアニメに登場するという経験はありましたが、キャラクターデザインで関わっている作品がアニメ化されるのは初めてです。自分がデザインしたキャラクターが動く姿を見られるのが楽しみでしたし、アニメの制作現場にも興味があったので、その点でも嬉しかったです。

――3月には第1弾PVが公開されました。ご覧になった感想はいかがでしたか?
めふぃすと:ただただ素晴らしいのひと言ですね。声が入ることで一気にアニメになったなと感じました。
ロケット商会:本当に素晴らしいですよね。
めふぃすと:圧倒的なクオリティでしたからね。
ロケット商会:映像美のすごさは海外の方の反響の大きさにも表れていますよね。ビジュアル面でのインパクトの強さを改めて感じています。

――では、アニメの制作についてもうかがえますでしょうか。顔合わせなどで、何か先生方からお伝えしたことはありますか?
ロケット商会:まずは本作が何をやろうとしているのか、どこを着地点としているのかという作品のコンセプトについて共有しました。
めふぃすと:相当後になって明かされるであろう衝撃の事実まで話されていたので、僕は「え、そうなんだ!?」と驚きつつ、その事実を心の中にしまいました(笑)。きっと制作スタッフの皆さんも同じ気持ちだったのではないでしょうか。
ロケット商会:そうですね。私は結末まで考えておくタイプなので。ネタバレなしに申し上げると、「英雄とは何か?」という部分です。

――そうだったんですね。髙嶋宏之監督やシリーズ構成の猪原健太さんとはどのような話し合いがあったのでしょうか?
ロケット商会:まずは原作のどこまでをアニメ化するかという点ですりあわせがあり、そこには私たちもまったく異論はありませんでした。その中で、原作とアニメで少し調整することになったのが、ザイロとテオリッタの関係性の深め方です。原作はもともとWeb連載だったこともあり、読者を引き込むために初期から二人の関係性を深めていきました。
アニメでは原作から関係性の築き方を意図的に変えていたりするので、どのようにアニメで描かれるのか原作読者の皆さんにも楽しみにしていていただきたいです。

――シリーズ構成やシナリオをチェックされる際は、どのようなことを大事にされていますか?
ロケット商会:大きなところだと、そのキャラクターの性格や状況にふさわしい言葉づかいになっているかと、情報に矛盾がないかの2点です。たとえば、あるキャラクターが発言する際、その場に別のキャラクターがいないのに、さもいるかのように話してしまうといった矛盾をチェックします。細かいところだと、この世界のこの要塞はどのような構造であり、どのような商品が並んでいるのか、といった設定面ですね。

――小説では省いてきた細部が映像では見えてしまうから、ということでしょうか?
ロケット商会:ええ。どんな構造でどんなものがあるのか、アニメだと映さなければならないんです。なので、シナリオや美術設定に関しては、逐次何があるのかをまとめたテキストをお渡ししています。ほかにも、中世ヨーロッパをベースにしたファンタジー作品では「トマト・じゃがいも問題」(※1)がよく話題に挙がりますが、この作品世界にはこういうものがあり、こういうものはありませんということをお伝えしています。例えば、「新聞」はあるけど「カメラ」はない、などですね。
(※1)中世ヨーロッパをベースにした(と思われる)作品にトマトやじゃがいもが登場すると、「中世ヨーロッパにはトマトやじゃがいもはなかった」と指摘されることがある。

原作イラストに“逆輸入”された雷杖のデザイン

――同時にキャラクターデザインのチェックもあると思います。野田猛さんのキャラクターデザインはいかがでしたか?
めふぃすと:僕の絵柄は実在の人間に近い、けっしてアニメ化しやすい身体のラインではないと思うんです。ですが、その特徴を汲み取りながらもアニメで動かしやすい、素晴らしいアレンジをしていただきました。最初こそ表情を中心に細かくチェックさせていただきましたが、野田さんがすぐに感覚をつかまれたので、最近はほとんど指摘を入れていません。野田さんのテイストも入りつつ、僕がイメージしたキャラクター像になりました。
ロケット商会:やっぱり、一番手ごわかったキャラクターはザイロですか?
めふぃすと:そうですね。ザイロって複雑なキャラクターじゃないですか? おぞましい暴力性もあれば、知性も兼ね備えている。僕が自分で描くなら自分のイメージどおりに描けばいいのですが、野田さんのテイストでそのバランスをどう表現するか。そのイメージに近づけるために、野田さんと何度もすり合わせていきました。

――ロケット商会先生は、キャラクターデザインについて何かリクエストをされましたか?
ロケット商会:めふぃすと先生と野田さんが納得いくレベルまで仕上げたデザインですし、それをただ受け取る立場だったので、まったく口を挟んでいません。もちろんラフは拝見しますが、全面的にお任せ状態でした。
めふぃすと:信頼していただけてありがたいです。
ロケット商会:逆に、めふぃすと先生から何かリクエストされたことはあったんですか?
めふぃすと:ベネティムの肩パーツでしょうか。最初のティザーPVでは肩のパーツが甲冑のような滑らかなパーツになっていますが、原作に合わせて宝石のような装飾パーツに変更していただきました。ベネティムは司令官であり、詐欺師というキャラクター。見た目でもハッタリが効かせたデザインにしたかったんです。
ロケット商会:確かに華奢な感じが増して軍師っぽさが出ましたよね。
めふぃすと:そうなんです。細かい装飾は作画カロリーがぐっと上がってしまうので、非常に申し訳ないなと思いつつも修正をお願いしました。最終的にはとてもかっこいい仕上がりになったと思います。

――キャラクターたちが使う武器やアイテム、いわゆるプロップのチェックもされるんですか?
めふぃすと:ええ。ほかに紋章や文字も確認しますが、プロップ専門の方を全面的に信頼しているので、「いいと思います」とお答えすることがほとんどです。
ロケット商会:雷杖のデザインは、原作にも取り入れましたよね?
めふぃすと:そうなんです。僕の場合はシルエット重視だったのですが、アニメ制作サイドが弾倉交換の仕組みまで作り込んでくださったんです。
ロケット商会:カートリッジなしで射撃することができるのか、カートリッジを使用するなら1本で何発射撃できるのか。そういうご質問をいただいたので、仕組みをご説明したらそのように作ってくださいました。
めふぃすと:メカニカルな設定が加わったことで一段と魅力が増しましたね。

――めふぃすと先生は先ほど、アニメの制作現場にも興味があるとおっしゃっていましたが、絵コンテなどもご覧になっているんですか?
めふぃすと:拝見しています。とにかく皆さん絵がうまくてびっくりします。シーンの繋がりや構図の演出も参考になりました。挿絵では脳内で前後のシーンを補完して“おいしい瞬間”を切り取りますが、アニメーター、演出家の方はまったく違うアプローチで構図を組み立てるんです。それが想像以上にかっこよくて。勉強させていただくばかりで、こちらからのフィードバックがないのが申し訳ないくらいです(笑)。

「懲罰勇者」と「魔王現象」が生まれたきっかけ

――では、原作についてもうかがっていきたいと思います。本作の着想からうかがえますか?
ロケット商会:きっかけはゲーム『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』に登場する懲罰部隊です。彼らの活躍をじっくり見たい、主軸に据えた作品に触れたいというところからスタートしました。
めふぃすと:懲罰部隊の発想をダークファンタジーへ転換するアイデアが面白いですよね。
ロケット商会:身も蓋もない言い方をすると、Web連載では「勇者」や「魔王」といった単語があるほうが読者に届きやすいんです。懲罰部隊と勇者を絡ませて、一番面白そうな組み合わせを考えていった結果、このような形になりました。

――そのうえで、魔王はいわゆる“魔物や魔族の上に君臨する者”というよくあるファンタジーの設定とは微妙に異なりますよね。
ロケット商会:魔王を番号で呼ぶ“魔王現象”としたのは、まずたくさん魔王を出したかったからです。さらに台風のような災害に見立てることで、何度も襲いかかってくる災害――“現象”に懲罰勇者が立ち向かう構図ができる。これが懲罰勇者への“刑罰”として機能するなと思ったんです。もし魔王が1体だけだったら、「次から次へと与えられる無茶な作戦に挑む」という形式にはなりづらいですから。

――懲罰勇者たちは何度死んでも蘇生させられ、再び前線へ送り込まれます。しかも、蘇生には後遺症のおそれもある、という設定も作品世界の雰囲気やキャラクター性に大きく寄与していますよね。
めふぃすと:RPGでは勇者が倒れても教会で復活する、という定番ネタを刑罰の仕組みに組み込んだんですよね?
ロケット商会:そうですね。ただ、死のペナルティが軽すぎると緊張感がなくなるので、バランスを取るのには苦心しました。たとえば最近の原作ではジェイスに重いペナルティを課して、死亡=楽では済まないバランスにしています。
めふぃすと:「勇者刑って死刑よりマシじゃん」では刑罰として台無しですからね。タツヤが徐々に壊れていく描写などは、勇者刑に処された人の末路、その過酷さが伝わってきます。

――めふぃすと先生は原作を読んでイラスト化する際、どのようなアプローチをされたのでしょうか?
めふぃすと:創作意欲が刺激される面白い物語だったので、まず「自分ならこう描く」というイメージをストレートに膨らませていきました。概ねそのままアウトプットした形になりましたが、ドッタだけは当初のイメージと大きく変わりましたね。

――最初はどんな姿だったんですか?
めふぃすと:最初はいわゆる“ねずみ男”だったんですよ(笑)。
ロケット商会:でも、お伝えしたイメージどおりなんですよね。粗野だけど愛嬌があるという、ドッタの特徴や魅力を私が言語化するとねずみ男になってしまう(笑)。
めふぃすと:それで三白眼のモブ顔系青年として描いたら、当時の編集さんに「もっとかわいいほうがいい」と言われ(笑)。思い切って年齢を下げ、ピンク髪の愛嬌あるキャラに振り切りました。
ロケット商会:完成稿を見て驚きました。私の脳内の“三頭身イメージ”とはいい意味でのギャップがあります。

――めふぃすと先生が驚いたデザインや特にいいなと思ったキャラクターは誰ですか?
ロケット商会:どれも素敵ですが、ベネティムは胡散臭さとかっこよさを両立させたデザインに度肝を抜かれました。
めふぃすと:SNSでもベネティムの顔のよさに驚いたという反応がありましたよね。でも、僕は最初からベネティムは美形でなければ説得力が出ないと考えていました。美形がいい声で理屈を述べるほうが、ギャップや胡散臭さが映えるんです。 いわゆる“糸目の男”のような感じですね。ただ、そのテンプレにしてしまうと、「裏切りそう……」みたいな別のニュアンスになるし、わざとらしいかなと思ったので、うまいバランスを探っていきました。

オーディションはキャラ性と声質のマッチングが決め手

――お二人はザイロの魅力をどう捉えていますか
ロケット商会:常に「何かとんでもないことをしでかしそうだ」という期待感を持たせる存在。そういうキャラクターにしたいと思いながら書いています。
めふぃすと:暴力性と知性が同居し、過去への怒りを抱え続けている。その怒りも過去を忘れないために、無理矢理自分を焚きつけているようなところがある……その複雑さが魅力だなと感じます。デザイン面では、抑えがたい怒りを表情やポージングに滲ませるようにしました。

――テオリッタについてはいかがでしょうか?
ロケット商会:テオリッタは逆説的な存在なんです。他人に愛されたいがために自己犠牲的な行動をするキャラクターであり、そういう風に造られたというグロテスクさがある。その複雑さを頭の片隅に置きながら接しないといけないキャラクターというのが面白い立ち位置になっているのかなと思います。
めふぃすと:そのグロテスクさを表現するために、デザインはストレートにかわいく描くようにしました。かわいさを強調すればするほど、“造られた存在”という設定が活きると考えたからですね。
ロケット商会:あのアホ毛は最初からあったんですか?
めふぃすと:最初からありました。原作で「髪が火花を発しながら風になびいた」と書かれていますが、常に燃えているような表現は難しいと思い、導火線のようなアホ毛を入れ、彼女を象徴するようなパーツにしました。
ロケット商会:表情も豊かで、ドヤ顔がたまらなくかわいいんですよ。アニメでもテオリッタは表情が映えると思います。

――ザイロとテオリッタのキャストもすでに発表されています。ザイロは阿座上洋平さん、テオリッタは飯塚麻結さん。どのような基準で選考されたのでしょうか?
ロケット商会:演技力に関しては候補者全員が申し分なく、最終的な決め手は声質がキャラクターのイメージに合うかどうかでした。最初に決まったのが阿座上さんです。ドスの効いた声ではあるけれど、どこか上品さがあるというのが決め手でした。
めふぃすと:ザイロの若さも感じられてよかったですよね。僕もテープオーディションの段階で、「この方だ!」と確信しました(笑)。それで、阿座上さん演じるザイロをベースに、ザイロに合うテオリッタ、ザイロに合うドッタ……という感じで、ほかのキャストさんを選考させていただきました。

――テオリッタの決め手はなんだったのでしょうか?
ロケット商会:テオリッタは子どもらしさと《女神》らしさが必要なので、その両立ができているかどうかでした。
めふぃすと:選考に時間をかけましたよね。テープオーディションがあり、スタジオオーディションがあり、そこからさらに役者さんを絞って、再度スタジオオーディションをさせていただいたんです。その中で、飯塚さんが子どもの無邪気さと《女神》の神性を見事に表現してくださり、満場一致で決定しました。

――アフレコもご覧になっているそうですが、キャスト陣の演技はいかがですか。
めふぃすと:圧巻の一言です。初めて現場でプロの力を目の当たりにし、毎回驚かされています。
ロケット商会:物語の構成として毎回新しいキャラクターが登場し、新しい声優さんがいらっしゃるので、そのたびに皆さんの技術に驚かされています。
めふぃすと:ツァーヴ役の福島(潤)さんなどは「こうしてほしい」とお願いしたら一発で完璧に応えてくださって、鳥肌が立ちました。

――最後に、1月からの放送を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。
めふぃすと:公開中のPVをご覧いただければわかるとおり、圧倒的なクオリティの映像が制作されています。僕も毎回、納得と驚きの連続です。原作陣の一人として可能な限り協力していますので、期待して放送をお待ちください。
ロケット商会:並々ならぬ気合いで制作されているアニメ版と、小説版との違いを見比べながら楽しんでいただければ幸いです。個人的には、タツヤの全身を使った派手なアクションを楽しみにしています。

役職
名前 名前